夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があるとするのが判例実務ですが(不貞慰謝料・最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁),不貞行為により当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至った場合に「離婚させたことを理由とする不法行為責任」を負うか(離婚慰謝料)については争いがあるとされていました。
最判平成31年2月19日は,「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが, 協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である」とした上で「したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を 理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される」「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するの が相当である」としました。
同最判は原則として「離婚慰謝料」を第三者に対しては請求ができないが,「特段の事情」がある場合には例外的にこれを認めるとの立場のようです。同最判のいう「特段の事情」とは「当該第三者が,単に夫婦 の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである」としています。同最判の事例では,不貞行為が発覚した頃には不貞関係は解消されていたことから「特段の事情」があったことはうかがわれないとして損害賠償請求を棄却しています。
同最判はあくまで「離婚慰謝料」の請求を原則として否定したものであり,第三者が「不貞慰謝料」の責任を負う可能性があるとする判例実務には変わりはありません。更に例外的な場合とは言え離婚を企図して不当な干渉をし離婚に至らしめたと評価できる「特段の事情」が認められる場合には「離婚慰藉料」の責任を負う場合もあり得ます。なお,不貞行為をした夫婦の一方が,「離婚慰謝料」の責任を負う可能性があることも当然となります。