令和2年7月27日に、東京商品取引所に上場していた貴金属、ゴム及び農産物の先物・オプションが大阪取引所へ移管され,証券・金融と商品の市場デリバティブ取引が一元的に行われる「総合取引所」が本格的に始動しました(日本取引所グループ「総合取引所の実現について -Commodity is mine-」)。
これまで株・債券・投資信託は金融商品取引法により,商品先物取引等は商品先物取引法によりそれぞれ規制がなされていましたが,総合取引所における商品関連市場デリバティブについては金融商品取引法により一元的に規制されるとされています。
その法律規制の構造についての備忘メモです。
金融商品取引法2条24項は同法の規制の対象となる「金融商品」を定めていますが,同項3号の3に「商品」((商品先物取引法・・第二条第一項に規定する商品のうち・・・政令で定めるもの・・・)が平成24年改正で追加されています。
そして,金融商品取引法施行令1条の17の2に基づく指定(金融庁告示)が令和元年6月28日になされています(金融庁「「金融商品取引法施行令第一条の十七の二の規定に基づき金融庁長官が指定する商品を定める件(案)」に対するパブリックコメントの結果等について」)。
また,金融商品取引法2条20項は「この法律において『デリバティブ取引』とは、市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引をいう」とし,このうち「市場デリバティブ取引」(同条21項)は「金融商品市場」において行われるデリバティブ取引をいうとされています。
そして,同条14項は「この法律において『金融商品市場』とは、有価証券の売買又は市場デリバティブ取引を行う市場(商品関連市場デリバティブ取引のみを行うものを除く。)をいう」と定めています。
商品関連市場デリバティブ取引「も」行う「総合取引所」は金融商品市場となり,そこで行われる「商品」を原資産とするデリバティブ取引(商品関連市場デリバティブ)についても市場デリバティブ取引として,金融商品取引法の規制の対象となることになります。商品関連市場デリバティブ取引「のみ」を行う商品取引所は金融商品市場に該当はしないので金融商品取引法の規制は及ばず,商品先物取引法の規制がなされることになります。
なお「商品」の価格(同条25項1号),「商品指数」(同条3号),これらに基づいて算出した数値(同条4号)も市場デリバティブ取引の原資産となる「金融指標」に加わることになります。なお店頭デリバティブ取引・外国市場デリバティブ取引については「商品」を原資産とする取引は除かれています(同条22項・23項)。
総合取引所における商品関連市場デリバティブを行うためには第一種金融商品取引業としての登録が原則必要となります(同法28条1項)。
ところで金融商品販売法(金融サービスの提供に関する法律)は商品先物取引は規制の対象としていませんが,商品関連市場デリバティブについては,金融商品取引法2条21項に規定する「市場デリバティブ取引」に含まれるものとして金融商品販売法2条1項8号で規制され,説明義務(同法3条),断定的判断の提供等の禁止(同法4条),損害賠償責任(同法5条),損害の額の推定(同法6条)が適用されます。もっとも,商品先物取引法においても説明義務や損害賠償責任についての規制があり(同法218条),金融商品販売法が準用されています(同法220条の3)。
これまで商品先物取引をめぐる被害事件は多数発生し,被害者救済のために商品先物取引法等を根拠に損害賠償請求が行われてきました。また不招請勧誘の禁止の原則(214条9号)など被害予防のための法規制が繰り返しなされてきました。金融商品取引法のもとでの一元的な規制となった場合においても,同レベルの規制がなされなければなりませんが,金融商品取引法と商品先物取引法では規制の方法に若干の異同もあるようにも思われます。また監督指針や自主規制レベルまでこれまでと同様の規制に服していると言えるのか,総合取引所が実現した現在,もう一度整理をしてみる必要があるように感じます。
(上記のメモに誤った理解がある場合はご指摘・ご指導頂けましたら幸いです)