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【内閣府消費者委員会】特定商取引法及び預託法における契約書面等の電磁的方法による提供についての建議

 現在、消費者庁は特定商取引法や預託法などにおいて義務付けられている書面交付を電子書面とすることを許容する改正を検討しています。

 訪問販売や電話勧誘販売などを規制する特定商取引法は、悪質商法から消費者を守る大変重要な法律です。中でも「クーリング・オフ」制度は、消費者を守る大きな武器となっていますが、このクーリング・オフの期間制限は、不備の無い法定書面が交付された時から起算されます。例えば訪問販売では「8日間」とされるクーリングオフ期間も、あくまで業者から適正な書面が交付された時から起算されるので、書面の不交付や書面不備があれば、クーリングオフ期間は起算されず、消費者はクーリングオフ権を行使できることとなります。

 この書面交付が電子化されると、消費者が契約内容やクーリングオフ権の存在などを正確に理解し把握することがますます困難となりますし、家族や見守り支援者などが契約に気が付くことも難しくなります。電子書面の交付・保存状態などによっては書面交付の有無や交付された書面の内容などを確認することも困難となり、クーリングオフ権の行使が困難となる懸念もあります。

 弁護士会や消費者団体からは反対の声が多くあがっています。兵庫県弁護士会も1月20日に「特定商取引法上の書面交付の電子化に反対する意見書」を公表しています。

 そして、内閣府消費者委員会は2月4日付で「特定商取引法及び預託法における契約書面等の電磁的方法による提供についての建議」を発出しました。建議では「消費者庁は、契約書面等の電磁的方法による提供に関し、特定商取引法及び預託法の内容及び両法による規制の特徴、取引類型ごとの契約の性質や実態、契約書面等の交付の意義、並びに消費者トラブルの実態を考慮し、契約書面等の機能を維持する観点から、以下の点について、その在り方等について消費生活相談の関係者等の意見を聴取して十分に検討を行い、必要な措置を講ずべきである。」として

(1)消費者の承諾の取得の実質化

 ア 消費者から得られる承諾は真意に基づく明示的なものでなけ  ればならず、安易に承諾が取得されないための手立てを講ずること。

 イ 消費者に対し、承諾前において承諾の効果等について十分な情報提供がされ、消費者が承諾の効果等を理解した上で承諾するように措置を講ずること。

(2)電磁的方法による提供の具体的方法

 契約書面等の内容が消費者にとって重要なものであることが確実に分かるよう、できる限り書面と同様に、一覧性を保った形で閲覧可能であり、かつ、消費者にとって容易に保存可能であること。

(3)クーリング・オフ期間の起算点の明確化と承諾の取得に関する立証責任

 ア 契約書面等を電磁的方法により提供する場合のクーリング・オフ期間の起算点を明確にすること。

 イ 消費者の有効な承諾を得たかどうかの立証責任は、事業者側にあることを明確にすること。

(4)法施行後の実態把握と検討

 電磁的方法による提供に伴う消費者取引の状況や法令等の運用状況について、その実態を把握し、法令に違反した事業者に対しては、迅速かつ厳正な法執行を行うとともに、それを踏まえ、電磁的方法による提供の在り方について、前記(1)から(3)までの措置の実効性を検証した上、必要に応じ、見直しを含め検討を行うこと。

 を求めています。

 

 消費者被害の多くは訪問や電話などの不招請勧誘からはじまります。特定商取引法を改正するのであれば、規制緩和をするのではなく、訪問勧誘・電話勧誘などの不招請勧誘そのものの禁止・規制強化こそ実現すべきです(日弁連2015年5月7日「不招請勧誘規制の強化を求める意見書」)。

 IT化を推進するといいつつ、訪問勧誘や電話勧誘などの「肉弾」勧誘自体は許容し、書面交付だけはIT化するというのは本末転倒です(押し売りが玄関先で何時間も居座って無理矢理契約をさせたあげく、最後にタブレット画面を取り出すようなものです)。IT化時代において求められるのは、訪問勧誘・電話勧誘など消費者被害の温床となる不招請勧誘の禁止です。