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IT重説によるオンライン不動産売買契約とクーリングオフ【メモ】

 令和4年5月18日に改正宅地建物取引業法が施行され,重要事項説明書と契約書の電子交付が可能となるなどオンライン契約が可能となります(国交省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」)。

 ところで,宅建業法37条の2は,宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所等以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主は、一定の条件のもとで、書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除を行うことができるとして,いわゆるクーリングオフを定めています。今般の改正においても37条の2は維持されており,オンライン売買契約が可能となった後も,クーリングオフ規定が適用される場合もあり得ることになります。

 オンライン売買契約においては,売主である宅建業者は事務所にいることが通常と思われます。他方,買主は売主の事務所にいることは想定されません(対面取引になります)。買主は,自宅・勤務先にいるか,喫茶店やホテルのロビーあるいはネットカフェなどにいることも理論上はあり得ます。

 宅地建物取引業法施行規則16条の5第2号は「当該宅地建物取引業者の相手方がその自宅又は勤務する場所において宅地又は建物の売買契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合にあつては、その相手方の自宅又は勤務する場所」において契約を締結した場合には,クーリングオフはできないとしています。

 買主が喫茶店・ホテルのロビーあるいはネットカフェなどにいる場合は,オンライン不動産売買契約についてはクーリングオフができることとなりそうです。

 他方で,買主が自宅又は勤務する場所にいる場合はクーリングオフができないこととなりそうですが,あくまで,買主が自宅又は勤務先で重要事項説明を受ける旨を「申し出た」場合に限られます。買主の積極的・自発的意思に基づく申出が必要となるのであり,事業者がオンライン不動産売買契約を所与の前提として,買主はこれに従わざるを得ない場合には,買主が自宅又は勤務先で重要事項説明を受ける旨を「申し出た」とは評価できない場合もありそうです。

 国土交通省「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドライン」4ページには「また、説明の相手方がその自宅又は勤務する場所において宅地又は建物の売買契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合にあっては、その相手方の自宅又は勤務する場所 ではクーリング・オフ制度は適用されないが、それ以外の場合には、クーリング・オフ制度は適用されることに留意する必要がある。なお、現実に紛争が発生した場合においては、相手方が申し出たか否かについて立証が困難な場合もあると予想されるので、クーリング・オフ制度の適用除外とするためには、契約書あるいは申込書等に顧客が自宅等を契約締結等の場所として特に希望した旨を記載することが望ましい。」とあります。あくまで買主が事務所における説明を受けることもできるにも関わらず,あえて自宅・勤務先を「特に」希望したことが必要と思われますので,オンライン不動産売買契約に特化した事業者について,買主が「特に」希望して「申し出た」と評価できるのか,慎重な検討が必要と思われます。

 ※ 以上の考察について誤り等があればご指摘いただけましたら幸いです。