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【日弁連】東京地方裁判所判決を受け、改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

 日弁連は令和4年7月6日に「東京地方裁判所判決を受け、改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明」を発しています。

 生活保護減額処分を取り消した令和4年6月24日東京地裁判決を受けた声明です。以下貼り付けます。

 

 東京地方裁判所判決を受け、改めて恣意的な生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

  本年6月24日、東京地方裁判所は、東京都内の生活保護利用者らが、2013年8月から3回に分けて実施された生活保護基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟において、当該処分を取り消す判決を言い渡した。

 

まず、同判決は、生活保護基準改定についての厚生労働大臣の判断には専門技術的考察を要することから、専門家の関与や専門的知見の収集の重要性があることを指摘し、生活保護基準改定が社会保障審議会生活保護基準部会等による審議検討を経ないで行われた場合には、改定の合理性について国が十分な説明をすることを要する、とした。

 

その上で、同判決は、本引下げの理由の一つとされたデフレ調整について、専門家による審議検討を経ていないことを指摘し、国の説明を踏まえ、①デフレ調整の必要性についての判断は、統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠き、あるいは、専門的知見との整合性を有しない、②物価の変化率による調整を行うとしたことの合理性についての判断は、審議会等において示されてきた専門的知見との整合性を有しない、③デフレ調整の起点を2008年としたことの合理性についての国の説明は、合理的根拠に基づくものとは言えず、根拠は不明である、④減額率を定めるに当たって厚生労働省が設定した「生活扶助相当CPI」については、生活扶助相当CPIの下落の相当部分がテレビ等の価格の下落の影響によるもので、統計を分析すると生活保護利用世帯のテレビ等の支出額は一般世帯の3割未満に過ぎない等とし、生活保護利用世帯の可処分所得の実質的増加の有無・程度を正しく評価し得るものと言えない、と判断した。そして、本引下げの影響は重大であるとし、本引下げに係る厚生労働大臣の判断過程には過誤・欠落があり、本引下げ全体について裁量権の逸脱・濫用の違法があったと結論付けた。

 

当連合会は、本引下げについて、一貫して反対してきたところであるが、本判決は、当連合会の見解にも沿うものであり、高く評価できる。また、専門家による審議検討を経ないで行われた生活保護基準改定の判断過程審査において国による十分な説明を要するとした点も、専門技術的考察を要する判断を行う行政側に訴訟上の説明責任を課した重要な判示であって、この点も評価できる。

 

本引下げについては、東京地方裁判所を含め、全国29の地方裁判所に30の訴訟が提起され、合計約1000名が保護変更決定処分の取消し等を求めている。既に11の地方裁判所で判決が言い渡されており、原告らの請求を認めた判決は、2021年2月22日の大阪地方裁判所判決及び2022年5月25日の熊本地方裁判所判決に続いて3例目である。

 

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の長期化、ウクライナ侵攻等の国際紛争に伴う物価や物流の変動、急激な円安といった社会情勢の変化に伴い、生活に困窮する方々が増え、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性が再認識されている。こうした中で、東京地方裁判所においても恣意的な生活保護基準の引下げが認められなかったことは重い意味を持つ。

 

当連合会は、「→生活保護法改正要綱案(改訂版)」(2019年2月14日・生活保障法案)の実現など、生活保護制度の改善と充実に取り組む決意を重ねて表明するとともに、大阪、熊本の両地方裁判所判決に続き、今回の東京地方裁判所判決においても本引下げにおける裁量権の逸脱・濫用が断じられたことを踏まえ、改めて、政府に対し、少なくとも2013年8月以前の生活保護基準に早急に戻すことを求める。

 

 

 2022年(令和4年)7月6日

日本弁護士連合会
会長 小林 元治

 

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