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【兵庫県弁護士会】安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に強く反対し、撤回を求める会長声明

 兵庫県弁護士会は令和4年8月26日に「安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に強く反対し、撤回を求める会長声明」を公表しています。

 以下、全文引用します。

 

安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に強く反対し、撤回を求める会長声明

 2022年(令和4年)8月26日

兵庫県弁護士会
会 長  中 上 幹 雄

 

1 2022年7月22日岸田内閣は、同年7月8日に死亡した安倍晋三元内閣総理大臣(以下安倍元首相と いう)の「国葬」を同年9月27日に行う旨の閣議決定をした。しかしながら、この決定については以下の理由で強く反対し、兵庫県弁護士会として撤回を求めるものである。

2 「国葬」には法令上の根拠がない

 (1) 明治憲法下においては国の統治者であった天皇の勅令であるところの「国葬令」に基づき、主に皇族 を 対象として国葬が実施されてきた。しかし「国葬令」は、国民主権を基礎とする日本国憲法に不適合なものとして「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条に基づき1947年12月31日の経過をもって失効し、これに代わる「国葬」に関する法律は制定されなかった。よって、現在は「国葬」を行ううえで、法的根拠となる規定は存しない。

 なお1967年に吉田茂元首相の「国葬」が実施された際には、翌年の国会答弁で当時の大蔵大臣が「法的根拠はない」と答弁し、当時の総務長官も「根拠になる法律もなく苦労した」と述べていた他、1975年に佐藤榮作元首相が死亡した際に「国葬」の実施が検討されたものの、「法的根拠が明確でない」とする当時の内閣法制局の見解等によって見送られてきた経緯がある。

 (2)政府は、安倍元首相の「国葬」を行う法的根拠として、内閣府設置法(1999年制定)第4条3項33号が内閣府の所掌事務に「国の儀式」を挙げていることをもって、閣議決定をすれば実施が可能であるとの見解を示している。報道によれば、政府内には当初、国費で賄う国葬は法的根拠に乏しいと慎重論もあったが、官邸幹部らが内閣法制局と協議を重ね、国の儀式開催を取り扱う同法の規定を根拠にすれば可能だとの解を導き出したとのことである。

 しかしながら、この規定は、各省庁の分担事務を定めた組織法にすぎないのであって、内閣府に「国の儀式」を開催する権限を付与した規定ではない。「国葬」は多額の予算を要し、かつ後述のとおり国民の思想信条に関わり得る性質をもつものである以上、その要件を定めた法規の存在が必要である。例えば、国の儀式の一つである「大喪の礼」は、皇室典範25条に「天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う」として、その根拠規定を置いている。

 (3)政府は、国葬の費用については、予備費をあてるとしているが、この点についても、財政民主主義上の問題がある。

 2020年10月17日に営まれた中曽根康弘元首相(2019年11月29年死去)の内閣・自民党合同葬にかかった経費の総額は、歴代首相経験者で最高額となる1億9300万円で、そのうち公費負担は9643万円であった。安倍元首相の国葬にかかる経費は、2億円を超える可能性が指摘されており、その全額が予備費でまかなわれるという。

 しかしながら、憲法は、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。」(憲法第83条)、「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。」(憲法第87条1項)、「すべて予備費の支出については、内閣は事後に国会の承諾を得なければならない。」(同2項)としている。すなわち、国会のコントロールが事後的にしか及ばない予備費の支出は、あくまでも例外的な措置と位置付けられているのである。事後的に承認を得られなかった場合でも、予備費の支出自体は違法とされず、内閣の政治的責任が問われるにすぎない。

 そもそも予備費は、災害復旧費用など緊急を要する場合に備え、当初から使途を定めない一定の予算額を予備費として計上しておき、機動的に対応できるよう設けられたものと考えられている。

 財政法第29条第1号は、予算の不足や新たな経費の必要に対応するため、国会の審議を経た補正予算の制度を設けているが、補正予算の編成及び国会審議に、一定程度の時間が必要となるので、緊急を要する場合のために、予備費が設けられているのである。 安倍元首相の国葬の実施について、補正予算を組むことなく、予備費でまかなうべき緊急の必要性は見出し難く、緊急の必要性について政府からの説明はない。

3 国民に弔意の表明が押し付けられる

 岸田内閣は、今回の「国葬」において、国民一人ひとりに対し弔意の表明や黙祷等は求めないと説明しているが、「国葬」が近くなれば、公的機関のみならず民間機関に対しても有形無形の同調圧力がかかることが危惧され、弔意の表明の事実上の強制が行われかねない。

 現に、2年前の中曽根元首相の内閣・自民党合同葬では、文部科学省が全国の国立大学になどに弔意を示すよう求める通知を出している。また、安倍元首相の死亡直後には山口県、東京都、川崎市、仙台市、帯広市、福岡市、吹田市、そして兵庫県では三田市の各教育委員会が、公立学校に半旗掲揚を求める通知をしている。

 このように「国葬」の実施は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制する契機をはらむものであり、とりわけ安倍元首相についての評価が大きく分かれ、国葬の実施に賛否が拮抗している状況を鑑みれば、安倍元首相の国葬を強行することは、国葬に反対する国民の思想・良心の自由(憲法第19条)を侵す虞がある。

4 結論

 当会は、安倍元首相の「国葬」には、このような憲法上の問題点が多々あることから、これに強く反対し、政府に撤回を求める。

                                                                        以上

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