東電平成20年試算は「数値計算を多数実施」?

 東電平成20年試算は領域⑨プレート間(津波地震モデル)について位置5×走向3=15ケース実施したとする。

 最判令和4年6月17日は「本件試算は、本件長期評価が今後同様の地震が発生する可能性があるとする明治三陸地震の断層モデルを福 島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上、平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って、上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、本件敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波を試算したものであり、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であったといえる」とする。

 しかし、本当に「変化させた数値計算を多数実施」と言えるのか。

 位置を5か所移動させたとするが福島第一に影響を及ぼす位置は「北」「やや北」とせいぜい「中央」の3か所である。「やや南」「南」は福島第一には影響を及ぼさない。ケース件数(2×3=6)はほとんど空振り、ケース件数稼ぎにしかならない。有意なケース件数はせいぜい9ケースにすぎない。素人目には「中央」ももはや通り越し過ぎである。中央の3ケースも有意とは言えないから、位置について有意なのは2ケース(×3=6ケース)しか実施されていないと言える。


 また、最判は「本件試算は…平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って、上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施」とするが「合理的と考えられる範囲内で変化」というのは不確かさを考慮するための「標準偏差」になる。そして平成14年津波評価技術では「既存断層パラメータのばらつきの評価結果」は付属編表3,1-1のとおりである。

 日本海溝南部のプレート間逆断層地震のハーバード解は標準偏差13.5とある。そして東電平成20年試算が基礎としている領域③について「三陸沿岸の評価例」(2-177)では以下のとおり記されている。


 土木学会2002では領域③について10か所移動し、走向は±10度ふっている。東電平成20年試算では抑制的に±5度しか振っていない。東電平成20年試算は、土木学会2002に従っていないし、試算を多数回実施したなどとおよそ評価できないのである。

 

【結論】

 

「本件試算は、本件長期評価が今後同様の地震が発生する可能性があるとする明治三陸地震の断層モデルを福島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上」

 

⇒ 領域③を領域⑨として設定するということ

 

「平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って」

 

⇒ 従っていない

 

「上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し」

 

⇒ 位置のパラスタのケース件数も少ないし(中央から南へのスライドは無意味)、走向のパラスタも10度振るべきところ5度しかふっていないから「合理的と考えられる範囲内(標準偏差)」で変化させておらず、「数値計算を多数実施」などとはおよそ言えない。

 

「本件敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波を試算したものであり」

 

⇒ そのように認定することはできない。「北」と「やや北」の間で位置を変化させる、そして、走向を+10度とすれば、さらに高くなる津波が試算される蓋然性が高い。

 

「安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であったといえる」

 

⇒ この程度の粗い計算では、安全性に十分配慮して余裕を持たせたとは言えないし、当時考えられる最悪の事態に対応したものとも言えない。合理性を有する試算であったとはいえない。