炉規法37条1項は「原子炉設置者は,主務省令で定めるところにより,保安規定(原子炉の運転に関する保安教育についての規定を含む。以下この条において同じ。)を定め,原子炉の運転開始前に,主務大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする」,同条2項は「主務大臣は,保安規定が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは,前項の認可をしてはならない。」,同条3項は「主務大臣は,保安規定が核燃料物質,核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止のため必要があると認めるときは,原子炉設置者に対し,保安規定の変更を命ずることができる」と定めている。
ところで東京電力福島第一原子力発電所の保安規定17条は地震・火災等発生時の対応として以下の通りの定めをしている。




保安規定17条は平成20年8月22日に認可され,平成21年1月1日から施行されているようである。

時期的には新潟中越沖地震や刈羽原発の事故を踏まえたものと思われ,地震発生時の火災予防に軸足が置かれているが,「津波」の文言はある。しかし,地震発生後の津波警報発令時の対応としては極めて不十分,というか何も定めていないに等しい。
この頃には東電は平成20年試算をしていたのであるから,敷地高を超える津波の可能性を前提に,せめて押し波発生対策を保安規定に定めるべきであった。国は津波対策の欠けた東電の保安規定変更申請を平成20年8月22日に漫然と認可している。保安規定が原子炉による災害の防止上十分でないのであるから炉規法37条2項により認可をしてはならなかったから,国の認可決定は違法である。
また,その後,貞観津波の知見や耐震バックチェックの遅れなどを踏まえ,災害の防止のために,東電に対して保安規定の変更を命じ,押し波発生時の対策を定めさせるべきであった。かかる変更命令権限の不行使も違法である。
大津波警報発令時の,津波の監視,防護扉等の閉鎖,運転制限(55度毎時)によらない緊急冷温停止作業,非常用冷却装置の起動継続などソフト面の対策を定めることにより,本件過酷事故を防ぐことをできた蓋然性は高い。